今回のトリノ五輪ですが、84%の人がフィギュア・スケートに関心を持ってるそうです。
かれこれ20年以上、フィギュアのファンやってますが、生きてる間に、こんなに人気が沸騰するとは思いもよりませんでした(ちなみに北米では人気ベスト3に入るウィンタースポーツです)。
残念ながら人気はシングル競技、しかも女子に集中してますね。わたしは日本ではいちばんマイナーなアイスダンスのファンでして、ほかはともかく、これだけはきっちり予約録画しておくつもりです。
サッカーのときもそうですが、やっぱり日本選手が強くなると関心が高くなる→ファンが増える、プレー人口が増える→情報が増え、環境が整う・・・それはそれでいいことです。
でも、いまみたいな過渡期には、「なーんか変」な情報も混ざってたりします。
思わず「ちゃうやろ」とチャチャを入れたくなった問題をとりあげてみます。
●イナバウアー、第一の誤解
まずは、「世界一美しい」と言われる荒川選手の「イナバウアー」。
技の名前には創始者である選手の名前がついていることはよく知られています。
「サルコウ・ジャンプ(ウルリッヒ・サルコウから)」
「アクセル・ジャンプ(アクセル・パウルゼンから)」
「ビールマン・スピン(デニス・ビールマンから)」
「キャンデロロ・スピン(フィリップ・キャンデロロから)」などが有名どころでしょうか。
なので「イナバウアー」もきっと選手の名前だと推測したあなたは正しい。問題は「イナバウアー」がファーストネームかラストネームかということです。アクセルさんはファーストネームで、ビールマンさんはラストネームなわけですが・・・
(考える時間30秒)
正解は「イナ・バウアー」、フルネームなんです。こういう例はちょっと珍しい。ジャック・バウアー、エディー・バウアー、イナ・バウアーてわけです。
なかぐろ(・)なしで続けて読むと、化学兵器かアマゾンの珍獣のような響きです。「なんちゃらレンジャーVSイナバウアー」みたいな。違います。
技の名称として「イナバウアー」になったんだよと主張する人がいます。でも、英語表記は「Ina Bauer」ですから(証拠はこちら。海外のフィギュアスケートのサイト。実演動画もあり。右側の画像をダブルクリックしてください)言い訳になりません。それなら「Inabaure」になるはずだ、と申し上げておきましょう。
個人的には「イナバウアー」だと「稲葉うわあ!」って脳内変換するのがイヤなんです。いろいろなところで「イナバウアー」の文字を見かけるたび、「なかぐろッ!」と心でツッこんでいる今日この頃でございます。
ということで肝心のイナ・バウアー(Ina Baure)さんは、50年代に活躍した西ドイツの選手です。後年、スキーの名選手だったトニー・ザイラーと「白銀に躍る(’61)」「空から星が降ってくる(’62)」といった映画で共演。ちなみにこの方です。
女優さんに転身するだけあって、やはり美しいですね。この写真はイナ・バウアーというより、レイバック・スピンのようですが。
●イナ・バウアー、第二の誤解
ところで「イナ・バウアー」といえば、これまた違う意味で誤解されていることがあります。
ほら、こんな技だと思ってませんか?
荒川選手の特徴である柔軟さと背筋の強さを活かして(それに加えておそらく二重関節でしょうね、うらやましい)、後ろに大きく反っていますが、これはイナ・バウアーの必須条件ではありません。大新聞、主要スポーツ新聞なんぞでも、平気で「イナバウアーとは、後ろに大きく反って、リンクを滑走・・・」みたいに書いてありますが、違います(きっぱり)。
イナ・バウアーとは「両足のつま先を180゜開き、足を前後にずらして後ろ側の脚は伸ばし、前側の脚は膝を曲げたポジションを取りながらの滑走」。
つまり、基本的には、こんなんとかこんな感じ。ペアでもできます。
男子はあんまりやらないとこれまた誤解している人もいるのですが、トリノで3位だったジェフリー・バトルのイナ・バウアーはひじょうに美しいです。
スプレッド・イーグル(写真は、これが得意技だったブライアン・ボイタノ。88年カルガリーオリンピックより。懐かしい) と少し似ていますが、脚のポジションが前後にずれていることと、前の脚を曲げているところが違いですね。
バレエをやってる人ならわかると思いますが、イーグルは2番、イナ・バウアーは4番もどきのイメージ。つまりそういうポジションのステップの一種ということです(厳密にはムーブズ・イン・ザ・フィールド)。
というわけで、大きくのけぞってることはイナ・バウアーの特徴ではありませんが、荒川選手の演技の特徴ではあります。いっそ“レイバック・イナ・バウアー”と呼びたい感じです。
残念ながら新採点では加点の対象にはならないようですが、“コレ”というじぶんの技を持っているということはすばらしいことです。それが必ずしもトリプル・アクセルだとか、4回転ジャンプじゃないところが素敵です。
フィギュアというとジャンプばかりがもてはやされがちです。大事な要素のひとつですし、成否が素人目にも明らかなので、成功したとか失敗したとかいうことばかりクローズアップされるのが、ファンとしてはひじょうに切なかったりします。違う!それだけじゃない!と絶叫したくなるわけです。
でも採点に関係あろうとなかろうと、荒川選手の“イナ・バウアー”は美しい。そう思わせる力があります。そんなところから、たくさんの人がジャンプだけではないフィギュアの魅力、愉しさ、美しさを発見するきっかけになってくれたらいいなぁ、と思います。
*注:念のため、わたしは荒川選手のファンではありません。
メダル予想は金=スルツカヤ(露)、銀=コーエン(米)、胴=村主(日)。
日本選手では表彰台に近い順に村主と荒川が接戦、ちょっとあいて安藤。表彰台に上がるとしたら村主か荒川のどちらかでしょう。
ダンスは、ナフカ&コストマロフ(露)、ベルビン&アゴスト(米)、ドロビアツコ&バナガス(リトアニア)の順。
高橋選手のこと「8位にとどまる」と書いたマスコミに。8位はオリンピックのフィギュア史上、日本の男子としては2番目の成績のはず。立派です。
かれこれ20年以上、フィギュアのファンやってますが、生きてる間に、こんなに人気が沸騰するとは思いもよりませんでした(ちなみに北米では人気ベスト3に入るウィンタースポーツです)。
残念ながら人気はシングル競技、しかも女子に集中してますね。わたしは日本ではいちばんマイナーなアイスダンスのファンでして、ほかはともかく、これだけはきっちり予約録画しておくつもりです。
サッカーのときもそうですが、やっぱり日本選手が強くなると関心が高くなる→ファンが増える、プレー人口が増える→情報が増え、環境が整う・・・それはそれでいいことです。
でも、いまみたいな過渡期には、「なーんか変」な情報も混ざってたりします。
思わず「ちゃうやろ」とチャチャを入れたくなった問題をとりあげてみます。
●イナバウアー、第一の誤解
まずは、「世界一美しい」と言われる荒川選手の「イナバウアー」。
技の名前には創始者である選手の名前がついていることはよく知られています。
「サルコウ・ジャンプ(ウルリッヒ・サルコウから)」
「アクセル・ジャンプ(アクセル・パウルゼンから)」
「ビールマン・スピン(デニス・ビールマンから)」
「キャンデロロ・スピン(フィリップ・キャンデロロから)」などが有名どころでしょうか。
なので「イナバウアー」もきっと選手の名前だと推測したあなたは正しい。問題は「イナバウアー」がファーストネームかラストネームかということです。アクセルさんはファーストネームで、ビールマンさんはラストネームなわけですが・・・
(考える時間30秒)
正解は「イナ・バウアー」、フルネームなんです。こういう例はちょっと珍しい。ジャック・バウアー、エディー・バウアー、イナ・バウアーてわけです。
なかぐろ(・)なしで続けて読むと、化学兵器かアマゾンの珍獣のような響きです。「なんちゃらレンジャーVSイナバウアー」みたいな。違います。
技の名称として「イナバウアー」になったんだよと主張する人がいます。でも、英語表記は「Ina Bauer」ですから(証拠はこちら。海外のフィギュアスケートのサイト。実演動画もあり。右側の画像をダブルクリックしてください)言い訳になりません。それなら「Inabaure」になるはずだ、と申し上げておきましょう。
個人的には「イナバウアー」だと「稲葉うわあ!」って脳内変換するのがイヤなんです。いろいろなところで「イナバウアー」の文字を見かけるたび、「なかぐろッ!」と心でツッこんでいる今日この頃でございます。
ということで肝心のイナ・バウアー(Ina Baure)さんは、50年代に活躍した西ドイツの選手です。後年、スキーの名選手だったトニー・ザイラーと「白銀に躍る(’61)」「空から星が降ってくる(’62)」といった映画で共演。ちなみにこの方です。
女優さんに転身するだけあって、やはり美しいですね。この写真はイナ・バウアーというより、レイバック・スピンのようですが。
●イナ・バウアー、第二の誤解
ところで「イナ・バウアー」といえば、これまた違う意味で誤解されていることがあります。
ほら、こんな技だと思ってませんか?
荒川選手の特徴である柔軟さと背筋の強さを活かして(それに加えておそらく二重関節でしょうね、うらやましい)、後ろに大きく反っていますが、これはイナ・バウアーの必須条件ではありません。大新聞、主要スポーツ新聞なんぞでも、平気で「イナバウアーとは、後ろに大きく反って、リンクを滑走・・・」みたいに書いてありますが、違います(きっぱり)。
イナ・バウアーとは「両足のつま先を180゜開き、足を前後にずらして後ろ側の脚は伸ばし、前側の脚は膝を曲げたポジションを取りながらの滑走」。
つまり、基本的には、こんなんとかこんな感じ。ペアでもできます。
男子はあんまりやらないとこれまた誤解している人もいるのですが、トリノで3位だったジェフリー・バトルのイナ・バウアーはひじょうに美しいです。
スプレッド・イーグル(写真は、これが得意技だったブライアン・ボイタノ。88年カルガリーオリンピックより。懐かしい) と少し似ていますが、脚のポジションが前後にずれていることと、前の脚を曲げているところが違いですね。
バレエをやってる人ならわかると思いますが、イーグルは2番、イナ・バウアーは4番もどきのイメージ。つまりそういうポジションのステップの一種ということです(厳密にはムーブズ・イン・ザ・フィールド)。
というわけで、大きくのけぞってることはイナ・バウアーの特徴ではありませんが、荒川選手の演技の特徴ではあります。いっそ“レイバック・イナ・バウアー”と呼びたい感じです。
残念ながら新採点では加点の対象にはならないようですが、“コレ”というじぶんの技を持っているということはすばらしいことです。それが必ずしもトリプル・アクセルだとか、4回転ジャンプじゃないところが素敵です。
フィギュアというとジャンプばかりがもてはやされがちです。大事な要素のひとつですし、成否が素人目にも明らかなので、成功したとか失敗したとかいうことばかりクローズアップされるのが、ファンとしてはひじょうに切なかったりします。違う!それだけじゃない!と絶叫したくなるわけです。
でも採点に関係あろうとなかろうと、荒川選手の“イナ・バウアー”は美しい。そう思わせる力があります。そんなところから、たくさんの人がジャンプだけではないフィギュアの魅力、愉しさ、美しさを発見するきっかけになってくれたらいいなぁ、と思います。
*注:念のため、わたしは荒川選手のファンではありません。
メダル予想は金=スルツカヤ(露)、銀=コーエン(米)、胴=村主(日)。
日本選手では表彰台に近い順に村主と荒川が接戦、ちょっとあいて安藤。表彰台に上がるとしたら村主か荒川のどちらかでしょう。
ダンスは、ナフカ&コストマロフ(露)、ベルビン&アゴスト(米)、ドロビアツコ&バナガス(リトアニア)の順。
高橋選手のこと「8位にとどまる」と書いたマスコミに。8位はオリンピックのフィギュア史上、日本の男子としては2番目の成績のはず。立派です。
イナバウアー、勉強になりました。
荒川さんを密かに応援している私としては、
彼女のイナバウアーをとても楽しみにしていたりします。
ちなみに脳内では常に「稲葉ウワー!」と変換してますすみませんすみません